2024年6月20日木曜日

小説「魔法少女ペテロ」

「おはよっ!

わたしは魔法少女ペテロ。使徒になぞらえて、この名前をもらったときはびっくりした・・・けどでも聖画を連想するのはやめやめぇ〜!わたしは、かわいいおんなのこ。38歳。

・・・ん?何か問題でも?」

一瞬凍りついた空気。奇抜な名前だな。名前負けしてるぜ。

タバコを燻らせながら俺は考えた。

俺は魔法少女株式会社というのを運営している谷岡だ。あくしろよ。

魔法少女ペテロ。本名鈴木かのこ。この女と出会ったのは人形町の富士そばだった。意外にもな。

「わたしには取り柄がない」

その時しがない低年収限界男性だった俺。カレーとビールを堪能している有象無象の1人にすぎねえ俺に、いきなり話しかけてきた女がこいつ。

「わたしってダメねえ」

くだらねえ。独り言しゃべりやがって。鈴木がそういって食べていたのは俺と同じカレーだった。

「今の違う私になりたい、私。」

「うるせえなババア。独り言は外でしゃべれよ」

「・・・外じゃ迷惑でしょ?」

声がワントーンあがる。ワントーンあがった時の、こう、若い女にない諦めたかんじの色気が、独特の香りと魅力を放っていた。ワインがあうな、この女。

綺麗なババア。

俺はビール缶を卓上において咳払いをした。

なんてことはない、どこにでもある風景。おっさんとおばさん。

病院の待合室にいるような、未来のない2人。

土浦の路上の草むらで捕まえたバッタのつがいみたいに、俺たちは凡庸で没個性的な絵面でありながら、それでいて何か他と異なった秘密の密会をしているようだった。

びびるだろ?俺たち初対面なんだぜ。

俺たちはその日に意気投合した。特にお互いに性的魅力を感じてるとかじゃねぇんだ、俺は独身だったけど別に女に興味なかったし、(むしろ男かな・・・)鈴木も配偶者がいたからまあそんな雰囲気にはならないよね。俺肉食系じゃねえし。

「わたしは取り柄がほしいんだ。もっと目立ちたい。もっと世界を変えたい。」

「じゃあ、起業するか」

「ふふふ。バカねあんた。なにするの」

「おまえ、魔法少女になれよ」

怪文書みてえな会話。


魔法少女

事業内容。顧客の要望に従い、魔法を行使すること。

「こいつです。前から千秒にかかっていて」

「うなってますねえ、凶暴だ」

鈴木に目配せする。従業員は3名になり、鈴木と山田、石川の三人になっていた。

千秒っていうのは悪霊につかれた現象の隠語、だ。

顧客の名前は伏せるが、ある大企業の役員で、そこの娘がサタンに取り憑かれたという依頼があった。

「ミラクル!クリーン」

鮮やかな薄ピンクと白のグラデーションの背景に一気に切り替わり、無数の星がきらめいていく。JKの制服をきるにはちょっときつい妙齢の彼女が、フィギュアスケートばりに何回転もしながら魔法少女の服装になっていく。やっぱりちょっときつい。ごめんな、昭和のおっさんだから。コンプライアンスとか疎くて。


俺はおもむろにフィリップ・モリスのやつを吸いながら目を細める。


黄金のブレスレット。


石川がJKの衣装を片付ける。

心臓が高鳴り、依頼主の顔がこわばる。


「テクノ・カット!」


オードリー春日のスタンドが現れ、「トゥーーーース!」と喝破した。そのエコーがやまびこのように四方にこだました。


依頼主の娘の白目が黒目に変わり、


「ぐぁあああああ!」


と唸っている。何が起こっているのかわからない。黄色い異臭のする液体が飛び散り、酸味を放射していた。

ことの発端は海外から輸入したイベルメクチンだ。


俺の母親が真実に目覚めていて、「インドでも実証されているの!」と目を輝かせながら送ってきたイベルメクチンを、俺は飲みたくなかった。


ので、このババアに摂取させたところ、BBAは黄金色にかがやきはじめ、


「うっほほほほおおおおおおおおおおおおおおおお」


「だ〜か〜らぁ❤️お〜じ〜さぁん」


などと、八重歯が尖り始めて立派なそういう、はい、そういうキャラになった。


無論肉体的に若返ったわけではないのであいかわらずただのおばさんだったわけだが、

「見えないものが見える」

ようになった。


「願いが叶った!」


これは立派なソリューションになる。そこで俺は早速マネーの虎に出演することにした。

あらゆる社会問題を、魔法少女を使いながら解決する。


金は、うごくだろう。


「ばかやろういいますわ!」


と怒鳴り散らした飲食店の社長に


「ぷりんぷり〜ん❤️魔法ぷり〜ん」


と奇声を発しながら呪文をかけたところ、七色の閃光を浴びた虎はほぼ0コンマ数秒で橋本環奈似の女子校生になってしまった。


「ばかやろう、いっちゃうわよ、うっふぅ〜ん❤️」


ここで取得したマネーは7億円。石焼ビビンパは作っていない。


「ぱん、ぱん、ぱんはぁと」も作っていない、そもそも俺は京大卒ではない。


話を元に戻すと依頼者の娘にも鈴木の魔法は効いたみたいで、娘から悪霊は消え去った。


ただ、娘は男性になり、


「えっ・・・24歳学生です・・・王道をいきま〜すやりますやりますねえ〜」


などと絶叫し出し、賠償問題にまで発展し、結局会社は倒産した。


あの女・・・・


ごめんな、変な薬飲ませて。

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