2024年6月24日月曜日

小説「路上生活者」

 小雨がふりかけてきたところで俺はテントに入った。

やすさんがこのシマを受け持っていてわしらも分け前の一部をやすさんに渡す決まりになってる、ってこの前愚痴ったらゆうすけさんも同じこと言ってた。

しとしと降る雨。雨独特の匂いが、子供時代を想起させる。

昔は建設会社で働いていて、当時は結構月給がよかったんだよ、40万くらい額面でもらってて、景気がよかったから、それで半分くらいはパチンコに注ぎ込んでたけど俺は結構センスあったから儲けてたりしたっけ。

娘は個別指導塾に通わせて、嫁とつつましく暮らしてた。よくできた嫁でさ、文句ひとつ言わねえ。

6畳1間で、ロマンあるだろ、昭和のあの雰囲気の、古臭いテレビを全員でみながら、俺は霧島を水割りで飲みながらマイルドセブンをふかして、目を細めてみる。

懐かしいな。俺、あの毎日がよかった。

できることならあの毎日に帰りたい、まだ若かった、後輩を怒鳴りつけてるときが楽しかった、俺。

井本はずっと挙動不審だったな。でも社長の倅よりはずっといい。

倅は狂ってて、よく大声で叫んでたしな。

しかも普通の叫び方とちげえんだ、何か見えてんだよね

「ぶっころすぞ!!!!」

って目を充血させながら、壁を蹴って宙をみて絶叫してる。

これを10年は繰り返してるらしい。だからうちには新卒の子がいなかった。

俺は名ばかりだったけど管理職だったから、社長とも仲良くて、酒の席でそれとなく(直接いうと角がたつだろ?角をたたせるっていうのはよくないのよ、社会人はよく覚えときな)唐揚げを食いながら聞いたんだ


「たけさんっていっつも怒鳴ってますけど、なんかあるんすか?」


悪気はなかったんだ、ただ知的好奇心で。俺だって社長とこう気心の知れた仲だとおもうじゃん、でも社長の顔がみるみる殺人鬼みたいな、鬼の形相になっちまったんだよね。


目が座ってる。


いい年をした、憎悪のかたまり。1番萎える瞬間だ。


こう触れちゃいけないものに触れたっつうかさ、弱点だったんだろうね。


翌日からこう俺はものすごくいろんな細かい仕事をいいつけられるようになった、俺は管理職だぜ?でも若い子にやらせようとしても「お前がやれ」ってネチネチいわれるわけ。まいっちゃうよね。

後から聞いた話だとむかしヤンチャしてときに薬をやってて、その影響で幻覚がみえるらしい。経理の良子ちゃんが言ってた。女の情報網ってほんとはんぱねーな。


家に戻ってとりあえず嫁に当たり散らす。米の温度がちげーっ!!!!って。

蹴って、ちゃぶだいひっくり返して、

震えながら憎悪の目で睨んでた娘のつらも、ひっぱたいた。


俺は家族にやつあたりし、支配して俺自身のみじめさを少しでも転嫁しようと、したんだな


泣き崩れる嫁と娘の前で、仁王立ちになる俺。


みじめだな。


消えちまいてえ。


クソみたいな俺。家族を傷つけることしか、できねえ。


力でまわりを屈服させたはずなのに、俺は1人道化みたいで、孤独で、みっともなかった。


俺はやけくそで家を飛び出し、俺の愛車のアクアで(うるせえな金がねーんだよ!)外に飛び出した。


そしたら土浦警察署前でお巡りに呼び止められちまった。


「免許証見せてください」


運転が荒かったのかな、いや、酒飲んでたからか。やべえ。


そしたら、


警察署前で、全裸で、ほんとうに着衣一切なしで、パラパラを踊ってる40代?くらいの男がいた。

しかも結構大音量でやってんな。ダンスダンス・レボリューションだっけ。騒音やべ〜よ。右翼の街宣車並みにうるせえな。

でもなつかしいな。俺も昔はクラブでねーちゃんとかナンパしてたから、お持ち帰りとかも笑・・・しちゃって。なんて会社で言うとみんな怪訝そうな顔、するんだけどな笑


「神はあなたを愛しています!!!!アメーン!ハレルヤ!アメーン」

「アメーン!主よ感謝します!あなたを賛美します!」


なんだこいつ・・・やべぇ。。。。


俺の前に群がっている警察が全員そいつのほうに注意を向けている間に、俺は全速力でその場を後にした。


「おめ、それは何かの縁だったんだべ」


やすさんが俺の上納金につばをつけてペラペラめくりながら、少し遠い目でぼやく。いつもは威張ってるクソみたいなやつだけど、やすさん、たまにいいこと言うんだよな。

人生って本当にクソみたいなことの連続だから、本当は全裸で踊るくらいが「まとも」なのかもしれない。

全裸にイデオロギーの手垢はついてないからな。

全裸は、つねに中立であり、誰も傷つけない。


俺、一本取られたんだ。


そう一瞬思ったけど、やっぱりふつうにやべえな、あいつ。


※この話はフィクションです

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